『 タイムカプセルの刑 』
作・U坊/リライト・Umiko


23世紀。

世の中に「死刑」はなくなっていた。

22世紀の大きな事件が原因だった。

西暦2150年、日本には殺人軍団という軍団ができていた。21世紀にたくさん現れた、殺人鬼の子孫たちだ。

彼らは、日本の国民の半分以上を殺した。殺されなかった人たちは、何とか殺人軍団をやっつけようと考え、殺人軍団絶滅会議を起こしたが、どうしても成功しなかった。結局、日本人は全員死んでしまった。

しかし、女の人がひとりだけ生き残った。彼女は、赤ちゃんを産んだ。女の子だった。

ついに、その女の人も殺されてしまった。だが、女の赤ちゃんは生き延びた。殺人軍団は、日本人を全員殺したと思い、外国に行ってしまった。




女の子は、なんとか生きていき、大人になった。女の子は、たくさん赤ちゃんを産んだ。
全員最初は女の子だった。その赤ちゃんたちが成長して、大人になって男の子を産んだ。こうして、23世紀、日本が復活した。

新日本人たちは、22世紀の事件によって、死ぬことがどんなに恐ろしいかがわかり、「死」という言葉を一言も口にしなくなった。

だから、死刑もなくなったのだ。




ところが、24世紀に入って、新日本人の中で、ひとりだけ、「死ぬ」という言葉を平気で使う男の子が現れた。

五里新人(ごさと しんにん)という名前だった。

五里家に生まれ、新しいことをするようにという思いを込めて付けられた名前だが、本当に、新しいことをしでかした。

新人は、大人になって、人殺しになったのだ。




新人は、親でも平気で殺した。彼一人で、約73人も殺した。

彼は、実は、22世紀に日本人を皆殺しにした殺人軍団の血を引いていたのだ。

警察は、ようやく、新人を捕まえた。けれども、死刑にすることはできなかった。

その代わりに、「タイムカプセルの刑」にした。




「タイムカプセルの刑」とは、100年間の間、「睡眠箱」に人間を入れておく刑だ。その箱に入っていると、食べたり飲んだりしないでも生きていける。

箱に入っていると、記憶をなくしてしまう。生きていくために絶対に必要なもの、言葉とか、食べることとか以外は、すべて忘れてしまうのだ。

「タイムカプセルの刑」になった人は、100年後の世界で目覚めたら、ゼロからやり直さなくてはならない。

これまで誰もタイムカプセルの刑にされたことはない。

睡眠箱も試されたことはない。
新人は、実験の材料にされたわけだ。




睡眠箱の大きさは2メートル。そこに新人は寝かされた。

彼は、ぎゃーぎゃー騒いで逃げようとしたが、そのうちに、眠ってしまった。

新人を入れた睡眠箱は、北海道の真ん中に、1,000メートルの穴を掘って埋められた。

これから100年、新人はこの中で眠ったまま過ごすのだ。

穴の底までは、細い非常階段があるだけだ。100年後には、箱ごと引き上げられるので、この階段を使うことはない。




それから、20年が過ぎ、30年が過ぎ、40年が過ぎ、そして、50年が過ぎた。

西暦2,365年、日本に、史上最大の大雨が降った。

海の水があふれ、大洪水が起こった。そして、せっかく生き延びた新日本人は、一人残らず死んでしまった。

いや、たった一人、五里新人だけは、睡眠箱の中で、眠り続けた。




100年が過ぎた。

新人は、やっと目を覚まして、睡眠箱から出てきた。

目を覚ました時、新人は、

「なんでオレはこんなところにいるんだ」

とびっくりした。地下1000メートルの穴の中は、太陽の光が届かないから、真っ暗だ。でも、ずっと上の方に、ほんのかすかに光が見えた。

その光の中に、細いらせん階段が見えた。

新人は、その階段を、光に向かって上がることにした。




2ヶ月かけて、新人は地上に上った。その間、彼はずっと、

「オレは誰だ、ここはどこだ」

と、考え続けた。でも、わからなかった。




地上に上がったら、アリ一匹いなかった。

あたりにあったのは、一面の砂だけだ。

新人は、がっかりした。上に行けば、何かわかるかもしれないと思ってがんばったのに、ここには砂しかない。

新人は、砂にしゃがみ込んだ。




すると、砂の間から、煙のようなものが出てきた。




その煙は、顔の形になった。

あちらにもこちらにも、同じような煙が出てきて、それは、73個の顔になった。

顔たちは、新人を取り囲んだ。




それは、新人が殺した73人の人々の顔だった。

中には、自分のお父さんとお母さんもいた。けれども、それらが誰なのか、新人には、思い出せなかった。

「わーーーーっ!!」

新人は、叫んだ。

顔たちは、新人をじっと見ていた。

「この顔は、なんなんだ」

新人は、ずっと考えた。考えても、考えても、答えが出ない。

新人は、とうとう気が狂ってしまった。

そして、自分が埋められていた穴に飛び込んで自殺した。新人は、上ってきた階段を一番下まで転げ落ちて、死んだ。




新人は、何も思い出せないまま、自分が殺したものに追われて、死んでしまった。

これが、タイムカプセルの刑だった。